黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい
30.
ギルバートは宣言通り、誰ひとりフィリーに近づけなかった。
最上階にある王女の私室に篭り、暖炉に火をくべ、冷たくなったドレスを脱がし、痣と擦り傷のある箇所を数えて、骨が折れていないことを確認した。
柔らかい服を着せ、水を飲ませて、ベッドに寝かせる。
ブロムダールの町から小舟に乗って到着した医者を連れ、階段を上がってきたオスカーは、危うく真二つに叩き斬られるところだった。
眉を吊り上げて厳重に抗議する。
「お前はフィリーのことになると目も見えなくなるのか」
ギルバートは肩を竦めた。
「悪いな、気が立ってるんだ」
医者はフィリーを診て、このまま暖かい部屋で休んでいれば、朝には目を覚ますだろうと請け負った。
それよりもギルバートの動きの鈍い左腕を見せろと要求する。
ギルバートはフィリーの回復を待ってからだと言い張って、明日も診察の約束を取りつけた。
ミネット人にしては話の通じる医者で、今晩は用心のためにブロムダール城に留まってくれるらしい。
フィリーが無事に目を覚ましたら、礼は相場の五倍にしようと決めた。
暗くなって汐が引き、再び石橋を渡れるようになった頃、窓の外では雪が降り始めた。
使用人たちが城と屋敷を行き来して、夕食の準備をしている。