黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい
世話になる手前、黒旗騎士団もなにやら手伝っているらしかった。
一階の広間で待てと言ったはずだが。
でも実のところ、フィリーが腕の届く範囲にいるのならなんでもよかった。
食事も酒も好きにすればいい。
ギルバートは暖炉の火を強め、眠っているフィリーの顎の下まで毛布を引っ張った。
ずっと握りしめていた手もしっかりと包む。
ベッドの端に腰かけ、いくらか血色を取り戻した寝顔を見下ろす。
世間知らずで泣いてばかりいた敵国の王女を、まさか自分がこんなふうに愛してしまうとは。
賢く美しくなっていくフィリーを、そばで見ていたのがいけなかった。
だけどもしかしたら、深い光を宿した翠色の目に見つめられたとき、すべては決まっていたのかもしれない。
ギルバートは腕を伸ばし、亜麻色の髪を梳いた。
「はやく目を覚ましてくれ」
きみの騎士は現実にいる。
夢の中をさまようフィリーに囁き、額に優しくキスをした。
夜が明ける少し前、マリウスが階段を上ってきた。
足音を聞きつけたギルバートは、仏頂面で薄くドアを開ける。
マリウスは慌てて近衛師団の盾を構えた。
ギルバートが斬りかかってこないのを確かめて、片方の眉を上げる。
「僕は思ったより嫌われていないみたいだ」