黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい
ギルバートは鼻を鳴らして言い返した。
「ああ、おめでとう」
無慈悲に閉ざされるドアの隙間に、マリウスが慌てて片脚を滑り込ませる。
「ちょっと待て、話を聞け。フェリシティはまだ目を覚まさないのか」
ギルバートは黙って頷いた。
元婚約者のくせにいけ好かないやつめ。
「僕は王都へ戻らなくてはならない。朝が来たらミネットは混乱するだろう。父の始末と、僕の結婚と、きみたちに頼まれたランピーニ侯爵の悪事に関する調査も進めなくては。フェリシティの回復を待ちたかったけど、そう悠長にしていられないんだ」
「らしいな。すぐに出発するといい」
マリウスがムッとして顔をしかめる。
「きみはこのままフェリシティを攫っていくんだろう。最後に会わせてやろうとは思わないのか。僕は別れ話の時間まで与えたのに」
その別れ話の最中にわざわざフィリーのほうを銃で狙わせた男がよく言う。
ギルバートは素っ気なく首を振った。
「正気か? 俺なら確実にお前の心臓を撃ち抜く」
マリウスはギルバートの過保護さにすっかり呆れているらしかった。
「なあ、言っておくけど、きみが僕の婚約者を奪ったんだぞ。僕と結婚すれば、フェリシティはいずれ王妃になって、大勢の人に祝福されるはずだった。悪者はきみのほうだからな」