黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい
ギルバートが氷の目を細める。
「いいか、俺が盗んだ女は俺の女だ。たとえ髪の毛の一本でも、彼女はもうお前のものではない」
マリウスが黙り込み、じっとギルバートを見る。
ドアの隙間にねじ込んでいた片脚を抜いて、ハッとしたように呟いた。
「本気でフェリシティが好きなんだな」
ギルバートは肩を竦めた。
義務や同情や任務のせいで、敵国の王女を助けたとでも思っているのだろうか。
ギルバートは愛してもいない女のために地獄の淵から蘇ったりしない。
マリウスは強引に部屋へ押し入るのを諦め、声を落として囁いた。
「フェリシティが目を覚ましたら、ブロムダール女伯とゾフィから話を聞いてみるといい。僕が産まれたばかりの彼女と婚約したのは、ある人に頼まれたからだ」
背を向け、静かに廊下を戻っていく。
ギルバートはしばらく考え込んでから、そっとドアを閉めた。
ベッドのそばに置いた椅子に座り、眠っているフィリーを見つめる。
ずっと自分を城に閉じ込めていた顔も知らない伯母が、涙を流しながら命懸けでギルバートを説得したことを、フィリーは信じられるだろうか。
窓の外は暁の光を待っている。