黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい

32.

時々目を覚ましては、ギルバートの囁きを聞いてまどろむことを繰り返し、とうとう窓の外が朱に染まる頃、フェリシティはようやく起きるのを許された。

夕食の匂いがする。
それでフェリシティは空腹を思い知った。

誰かが階下で食事の準備をしている。
ギルバートと世界にふたりきりでいられるなら、お腹なんて空かなくてよかったのに。

ふてくされてベッドにしがみつくフェリシティを、ギルバートが笑う。

「きみは砂糖菓子みたいにかわいいんだな、シュガー」

階段を上がってくる足音がして、ギルバートがドアを開けた。
オスカーが隙間から顔を覗かせる。

「まあ、オスカー!」

フェリシティはパッと立ち上がり、ドアに駆け寄った。
食事を運んできたオスカーがいたずらっぽく片目をつぶる。

「やあ、フィリー。元気になったみたいでよかった」

「下にいるのは黒旗騎士団なのね。いつもより賑やかだもの」

オスカーは食事をテーブルの上に置くと、フェリシティの背中をぎゅっと抱きしめた。

「みんなギルバートと一緒にきみを盗みに来たんだよ」

フェリシティは鼻をすすった。

「あなたたちには助けられてばかりだわ。どうやってお礼をしたらいいかわからないの。本当にありがとう」

初めて城の外に出た輿入れの日、プルガドール湖の汀でギルバートとオスカーに出会わなければ、なにもかもが違っていた。

ギルバートが喉の奥で唸って警告する。

「フィリー、五秒数えるまでに俺のところへ来るんだ」

フェリシティはおとなしくオスカーの腕を離れ、ギルバートの隣に戻った。
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