黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい
ブロムダール伯爵家はいくらかの財産を没収されただけで、最悪の処罰を免れ、引き取り手のない王女を辺境の地で預かることになる。
ヴァイオレットは伯爵邸の対岸にある小さな城にフェリシティを閉じ込め、決して誰とも会わせなかった。
王女の孤独を証明し続けなければならない。
いつかマリウスが父親を打倒し、安全が約束されるその日まで。
ヴァイオレットは自分を恥じている。
マルジオに妹を差し出し、姪を幽閉していたことで、どれほどの軽蔑に晒されてきたことか。
その必要はないと伝える前に、フェリシティはどうしても気になることを指摘した。
「でも、私が男の子だったら? マリウスと結婚することも、王家の血筋を捧げることもできないのに」
ヴァイオレットとゾフィは顔を見合わせ、懐かしむように目尻を下げた。
「私も妹に同じことを言ったの。そしたらマーガレットは、絶対に女の子だから心配しないでと笑ったわ」
マーガレットはブロムダールでフェリシティを産み、数日後、力尽きたように亡くなった。
なぜ母が味方もいない娘をたったひとり残したのか、フェリシティにはずっとわからなかった。
一緒に連れていってくれたらよかったとさえ思った日もある。
でも、これが答えだった。
フェリシティはいつも、ひとりではなかったから。
隣に座るギルバートを見上げる。
ギルバートが小さく頷き、手を離した。
フェリシティはヴァイオレットとゾフィに歩み寄り、片方ずつの手でふたりの手をとる。
「私はずっと、みんなに守られていたのね」
両親と、従兄弟と、伯母と世話役と、ブロムダールの人々に。
ヴァイオレットが目に涙を溜めて立ち上がる。
フェリシティがはにかみながら伯母の背中に腕を回すと、ヴァイオレットは震える手で抱きしめ返してくれた。