黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい

33.

実のところ、重症なのはギルバートのほうだった。

ブロムダールの医者はフェリシティの回復を請け負った後、ギルバートに二週間の療養を言い渡した。

「本当は半年と言いたいところだが、あんたみたいな男には耐えられないだろう。常人なら死んでいるぞ。天使の祈りのおかげだな」

すぐにでもミネットを離れたがるギルバートを、フェリシティは医者と結託して引き留めた。

黒旗騎士団も半数がブロムダールに残った。

団長の回復を待ちながら、戦闘で壊した家具を修理したり、プルガドール湖から海へ出て漁をしたり、城の裏手の洞窟を塞いだりしている。

ギルバートとフェリシティはほとんどの時間を王女の私室で過ごし、窓から波を眺め、夜になったら星を数えた。
時々は石橋を渡って伯爵邸の庭園を散歩し、ヴァイオレットと一緒に紅茶を飲み、日のあたるバルコニーで昼寝をする。

フェリシティは医者の言うことをよく聞き、ギルバートが無茶をしないかいつも見張っていた。

「ギルバート、包帯を替える時間だわ。お薬を塗らないと」

長い脚を投げ出してソファに寝そべるギルバートが、気に食わなそうに鼻を鳴らす。

「フィリー、これだけ毎日じっとしているんだ。放っておけばそのうち治る」

フェリシティはギルバートを見下ろし、眉を吊り上げた。

「それならあなたは、私の楽しみを奪うつもりね」

ギルバートが愉快そうに青い目をきらめかせて飛び起きる。
フェリシティの腰を引き寄せ、唇にキスをしながらシャツを脱ぎ捨てた。

「そういうことなら協力しようか、マイ・レディ」

フェリシティはくすくすと笑い、いたずらを始めようとするギルバートの手を窘め、苦労して包帯を取り替えた。





やがてマリウスがミネット王として即位した。
ランピーニ侯爵の悪事が糾弾され、アナスタシアとの婚約の破棄も認められた。

王女の処遇についてはまだなんの発表もない。

ギルバートがいつまでもここにいてくれるならいいのに。

だけどフェリシティは、ギルバートが窓からキールの方角を指し、故郷がどれほど素敵な街か話すのを聞くたびに、いつかくる別れのため、ひとりきりになってこっそり涙を拭った。
< 161 / 170 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop