黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい

「本気なの?」

囁くようにたしかめる。
ギルバートが立ち上がり、フェリシティの顔を覗き込んだ。

「当然だ。頼むよ、フィリー。俺を捨てないでくれ」

抱きしめられ、耳や頬に懇願のキスが落ちてくる。

フェリシティの目から涙がこぼれた。
慌てて両手で顔を覆う。

「でも、キールの人たちは許してくれないかもしれない。きっとフリムランはあなたを責めるし、ミネットは私を追ってくるわ」

ギルバートが身体を前後に揺らし、泣いて震えるフェリシティをあやした。
強くて優しい両腕がしっかりと捕まえていてくれる。

「もちろん、きみは選ぶことができる。ここで家族と暮らしてもいいんだ。俺は何度も会いにくるよ。でも、帰りたくないとぐずってきみを困らせるかもしれない。今夜みたいに」

ギルバートが腕に力を込め、心の底ではフェリシティを放す気がないことを思い知らせた。

フェリシティは鼻をすすって笑う。
広い背中に腕をまわし、ギルバートを見上げて頷いた。

「私を連れていって」

背伸びをして、キスをする。

ギルバートはフェリシティを抱き上げると、月の光の中でワルツを踊るように、くるりと回って笑い声を上げた。

腕にフェリシティを抱いたまま、大股でドアに向かって歩いていく。
フェリシティはびっくりして顔を上げた。

「待って、本当に今からなのね?」

ギルバートは王女の私室のドアを開け、階段を駆け下りた。

ブロムダール城の使用人たちが何事かと目を見張っている。
みんなが仕事の手を止め、不思議そうに顔を覗かせた。

一階の広間では、夕食の準備が進められている。
ギルバートがフェリシティを抱いて広間を横切ると、ヴァイオレットとゾフィが慌ててあとを追ってきた。
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