黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい
石橋のたもとで黒馬のマック・アン・フィルが待っている。
獅子の紋章を掲げた黒旗騎士団とともに。
ギルバートがフェリシティを馬に乗せる。
鎧に足をかけ、うしろに跨り、満月に照らされたブロムダール城を振り返った。
黒いマントをなびかせ、ずっとフェリシティを閉じ込めてきた城に向かって高らかに告げる。
「我が名は黒旗の騎士ギルバート、フェリシティ王女はこの俺がもらいうける!」
馬の鞍に取りつけたサドルバッグから書類を引っ張り出す。
フェリシティを見下ろし、いたずらっぽく片目をつぶった。
「結婚許可証だ。キールへ戻ったら俺と結婚してくれ」
フェリシティは目を丸くして結婚許可証を受け取った。
フリムラン国王リチャードのサインと、ギルバートとフェリシティを夫婦と認めることが記されている。
「まあ、ギルバート!」
フェリシティはギルバートの首に腕をまわしてしがみついた。
さっきギルバートが跪いてしたことは、結婚の申し込みだったのだ!
ギルバートの両腕が、何度も頷くフェリシティを強く抱きしめる。
黒旗騎士団が拍手や口笛でふたりを祝福し、ブロムダールの人々は涙ぐんで手を振った。
満月の夜、黒旗の騎士とともに、黒馬のフィルに乗って石橋を渡る。
波のないプルガドール湖に沿って隣国へ向かいながら、ギルバートの腕の中から、フェリシティはブロムダール城を振り返った。
冬の夜の空に淡い橙色の明かりを灯し、海の上からいつまでも王女を見送っている。
「ブロムダールは美しい城だ。思っていたより悪くなかった」
ギルバートが敬意を込めて囁いた。
フェリシティはギルバートの胸に頬を寄せ、にっこりと笑う。
「当然よ、だって私の家だもの!」