黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい

35.

キール伯爵家の黒旗騎士団が設立されたのは三百年前のことだった。

領主の護衛に集められた騎士たちは、剣と槍を手に戦い、重たい鎧を脱いでからもキールの地を守り続け、いつしか国を救う英雄となった。

ギルバートは当時からキールの人々に愛されてきたベルベットの黒いマントを着て、ボトルグリーンの大綬に勲章を佩用し、黄金の頸飾を下げている。

獅子の紋章を飾ったマチの大きな制帽を被り、古風な礼服を身にまとって、フェリシティの前に跪く。

広いツバの下から青い目に見上げられ、フェリシティは頬を染めた。
目を眇めて呟く。

「あなたって、これ以上魅力的でいる必要があるのかしら」

ギルバートが立ち上がり、額にキスをした。

「きみみたいな花嫁を惚れさせることができるなら、いくらでも」

フェリシティは純白のドレスを着ていた。
すっきりとしたフリムラン風のシルエットは美しく、繊細なレースがたっぷりと施されている。

優美な刺繍のウェディングベールは数日前にブロムダールから届けられた。
亜麻色の髪を華やかに結い上げてくれたのはカミラだ。

聖職者のもとでギルバートとの結婚を宣言したことで、フェリシティは正式にミネットの王位継承権を放棄し、キール伯爵夫人となった。

ミネット王室がフェリシティ王女の帰国を要求したとき、リチャードはそれをはっきりと拒否した。
フェリシティがミネットへ戻れば今度こそ英雄が国を捨てると、王もきっとわかっている。

それに、ミネットとの対話にはフェリシティが役に立つ。
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