黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい
フェリシティはリチャードに頼まれ、不可侵条約のための外交交渉に加わっていた。
ミネットはこの先の十年をかけて、フリムランに賠償金を納める。
条約の締結と謝罪が済んだら、ミネット国内にいるバイロンのような旧派への救済にも着手するよう、働きかけるつもりだ。
フェリシティはギルバートの腕に手を引かれ、初夏のやわらかな日差しの下へ出た。
キール伯爵邸の庭園は草花や樹木、泉と橋の自然な景観が美しい造りで、今年は色とりどりのマーガレットがそこかしこに咲いていた。
結婚式の招待客はそう多くない。
けれど、戦いを終えた今はほとんどを領地で過ごしているオスカーやハーヴェイ、ミネットからはヴァイオレットとゾフィが出席し、ふたりのことを心から祝ってくれる人たちが集まっている。
そうはいっても、まだフェリシティが会ったことのない招待客が大勢いるのは当然のことだった。
ギルバートに連れられ、庭園に並べられたテーブルを次々に移動して、祝福を受ける。
「ああ、あそこにいた」
ギルバートはマーガレットの花壇の前に立つ背の高い男を見つけて呟くと、フェリシティの手を引いていった。
「宰相閣下」
壮年の男が振り返る。
左の目の下に大きな古い傷があった。
夏の空を映した虹彩は琥珀色に光っている。
どんなに整った身なりをしていても、フェリシティが彼を間違えるはずはなかった。
「南の大国ナバの宰相で、王立騎士団の一等騎士を叙勲しているギャレット侯爵閣下だ。俺がナバへ遊学しているときの教育係だった」
ナバの宰相がフェリシティの手をとり、指先に唇を寄せる。
「久しぶりだな、フィリー」