黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい

フェリシティは翠色の目を見開いて囁いた。

「あなた、ライアンね」

ギルバートがフェリシティの手を奪うように掴み、背中に引き寄せて隠した。
宰相の前に立ちはだかり、低く問いただす。

「なぜ閣下が俺の妻をその愛称で呼ぶのですか。いつお知り合いに?」

今すぐにでも剣を抜きたそうなギルバートを、フェリシティは必死に止めた。

「待って、ギルバート! どうしてそうだったのかは私にもわからないけど、ライアンはブロムダール城の煙突掃除人なのよ」

ギルバートが怪訝そうに眉を寄せる。

「煙突掃除人? ナバの宰相がなぜ」

ライアンは皮肉っぽく肩を竦めた。

「勘が鈍っているらしいな、ギルバート。ブロムダール城へ送り込む使用人の身元を調査していたのは、マリウス国王陛下だ。私に煙突掃除をさせようと思いついたのはフィリーの母親だった」

フェリシティはハッとして顔を上げた。

「お母様が?」

ライアンが頷き、ギルバートに振り払われた手を痛そうにさする。

「マーガレット様はナバに助けを求められた。私の主君はルドルフ王と親交が深かったから。煙突掃除の時期に合わせて私がブロムダール城を訪れ、もしも王女が本当に厄介な危険に晒されたときには、ナバへ亡命させる約束だったんだ。かなり危ない賭けではあった」

フェリシティは心臓に手を当て、祈るような気持ちで母のことを想った。
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