黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい
キール伯爵邸の南端にある寝室のドアを開けたとき、ベッドに座った夫が真剣な顔で本を読んでいた。
窓の外から月が見下ろしている。
フェリシティは首を傾げた。
「本を読むのが好きだった?」
部屋に入ると、ギルバートがパッと頭を上げた。
熱心にしすぎて、虚をつかれたらしい。
すばやく本を枕の下に隠す。
フェリシティはいたずらっぽく笑い、シュミーズの裾を持ち上げて、ベッドの上に膝をのせた。
「なにを読んでいたの、ギルバート」
「碌な本じゃない」
滅多にないことに、ギルバートがフェリシティから逃げようとする。
フェリシティはなんとかして、枕の下に隠された本の表紙を覗きたがった。
ギルバートが頑なに防ごうとする。
ぐちゃぐちゃになったキルトが脚に絡まり、バランスを崩すと、とっさに腕を伸ばしたギルバートと一緒にベッドの下へ転がり落ちた。
慌てて身体を起こす。
「ギル、だいじょうぶ? 傷が痛む?」
下敷きになったギルバートが、口の端を持ち上げて笑った。
「きみに怪我がないのなら」
フェリシティは床の上に転がった本に目を留めた。
褪せた灰色の表紙の、ナバ王国に伝わる古い書物だった。