黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい
「オスカーは?」
「奥の部屋でお待ちです」
肖像画の前を通り過ぎ、廊下を進んで一番奥の控えの間へ向かう。
明かりを抑えた室内で、オスカーは暖炉のそばのソファに座り、オットマンに足をのせてくつろいでいた。
手元の蝋燭で資料を読んでいる。
おそらく、プルガドール湖の戦いについて記された古い報告書だ。
オスカーが顔を上げ、ひらひらと片手を振る。
窓辺に近づき、ギルバートは眉を寄せた。
オスカーの隣に置かれた小さな椅子の上で、ケープに包まったフィリーが膝を抱えて眠っている。
こんなふうにフィリーが寄る辺なさそうにする理由を、ギルバートはわかっていた。
たしかに、プルガドールの岸辺でミネットの王女に出会ってしまったせいで、ギルバートは厄介な状況に追い込まれた。
王女誘拐の罪で訴えられれば、ミネットに侵略の口実を与えてしまう。
国内からも糾弾される。
自国を危険に晒してまで、ミネットの王女を保護したいフリムラン人などいないに等しい。
むしろ、王女への報復を叫ぶはずだ。
国王リチャードはギルバートの恩人であり、忠誠を誓っているが、フリムランにとって最良と判断すればすぐにギルバートを切り捨てるだろう。
フリムランはギルバートの裏切りを許さない。
オスカーの忠告通り、まさに両国を敵に回すことになる。