黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい
「うるさい。起きるだろ」
「フィリーはがんばって眠らずにお前の帰りを待っていたんだぞ。かわいそうだから、フランツに頼んで睡眠薬を垂らしたミルクを出してもらった」
それでよく眠っているのだ。
意地になって待たなくてもよかったのに。
オスカーが立ち上がり、荷物をまとめて帰り支度をする。
ギャロワ卿の邸宅もここからそう遠くないところにあった。
「俺はフィリーが好きだな。世間知らずだけど、美人で聡明で、ギルの調子を狂わせる。陛下がフィリーを国に留めることにしてくれて本当によかった」
調子を狂わされているつもりはないが、フィリーはミネット人にしては賢く、謙虚で想像力があり、思慮深かった。
それに、世間知らずなのは本人の責任ではない。
ギルバートは胸にフィリーを抱え、サロンを後にした。
オスカーが部屋の外に控えていたフランツから外套を受け取り、見送りを断る。
「はやくその子をベッドへ連れていってやるんだ。舞踏会で会おう」
さっそく黒旗騎士団の凱旋を祝うパーティーが開かれると知って、フランツは数日前から張り切っている。
主役たるキール伯爵家の当主が出席しないわけにはいかないからだ。
ギルバートは腕の中で眠るフィリーの寝顔を見下ろし、足音を立てないように、ゆっくりと階段を上っていった。