黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい
この部屋はキール伯爵邸のゲストルームなのだろう。
昨晩、オスカーとふたりでギルバートの帰りを待っていたのを覚えている。
途中で眠ってしまったのだ。
ここへ運んでくれたのはきっとオスカーだろうけど、もしかしたらギルバートだったかもしれない。
「あなたのお世話を仰せつかりました、カミラと申します。八年前からここでギルバート様にお仕えしています。よろしくね、フィリー」
仕立てのいい黒の侍女服を着たカミラは、フィリーの両手をとって立ち上がらせると、窓辺の椅子に座らせた。
「お腹が空いてる?」
フィリーは首を振った。
「いいえ、昨夜遅くにスープとミルクをいただきましたから」
「わかりました。食事は後にしましょう」
カミラが一旦外へ出て、使用人たちに指示を出した。
部屋の中に猫足のバスタブが運び込まれる。
熱いお湯とタオルと着替えも準備された。
フィリーは飛び上がりたいほどうれしくなった。
どうやら入浴させてもらえるらしい。
ブロムダール城を出てからはゆっくり休息をとることもできなかったので、手や足は汚れ、髪には埃が絡まっているし、身体中がぐったりしていた。
使用人たちが支度を終えて部屋を出ると、カミラがフィリーの目の前に立ち、昨夜から着ているドレスを脱がせにかかった。
「さあ、今からとびきりの令嬢になれる魔法をかけますから」
フィリーはついカミラの手を掴んだ。