黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい
「いいえ! ひとりでできます、着替えも入浴も」
カミラが怪訝そうに眉を上げる。
「本当に? 失礼ですけどこのドレス、あなたがひとりで脱ぎ終わる頃には日が暮れてしまうのではないかしら」
フィリーは言葉に詰まった。
今は城に幽閉されていた王女ではなく、フリムランで生まれ育った町娘ということになっているのだった。
ミネット風のドレスほど華美でないとはいえ、ボディスとスカートしか扱ったことのない普通の娘に着替えは不可能だろう。
フィリーは抵抗を諦めた。
「あの……お願いします」
カミラが満足そうににっこりと笑う。
「もちろんです」
丸いハシバミ色の目にツンと上向きの鼻をしたカミラは、外見こそ優しげで幼く見えるが、実際はフィリーより少し歳上かもしれない。
使用人にテキパキと指示を出す姿は、ブロムダール城のゾフィを思い出させる。
カミラはフィリーの服を脱がせ、バスタブの中に入れると、頭の先からつま先までを磨き上げた。
珍しい亜麻色の髪を褒め、陶器のような白い肌に感嘆する。
「まるで一度も太陽の光を浴びたことがないみたい」
ほとんどそのようなものなので、フィリーは曖昧に笑って誤魔化した。
入浴を終えると、カミラはフィリーを椅子に座らせ、長い髪を丁寧に梳いた。
埃と汗に汚れていた髪が、本来の艶やかさと美しいカールを取り戻していく。