黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい
「ギルバート様がナバへ遊学されたのは、十三歳になってすぐの頃でした。向こう見ずで無茶ばかりされて、大胆で美しく自信に溢れていて、誰もあの方から目を離せなかった。ウインクひとつでどんな女性も恋に落ちるの。いつか爵位を継いだら必ず立派な領主になると、みんなが知っていたわ」
カミラがギルバートのことを語る口調には、親愛と尊敬が込められている。
フィリーはおとぎ話をせがむようにカミラの話に耳を傾けた。
その頃のギルバートに会ってみたい。
ギルバートのウインクはきっととびきりキュートだ。
決してくつろがず、いつも警戒して人を寄せつけないギルバートからは想像もつかないのに、フィリーにはなぜかそうとわかっていた。
カミラがふと髪を梳く手を止める。
「でもそれは、もっとずっと後のことだと思っていました。十年前のプルガドール湖の戦いは、すべてを変えてしまったわ。あなたも辛い思いをしたでしょうね。ご家族はお元気ですか? ギルバート様はすぐに帰国してキールを取り戻してくれたけれど、ブラインは十年もミネットの支配を受けていたなんて」
カミラの声は恐ろしさに震えている。
ブライン砦が攻め落とされた後、キールも一時はミネットの占領下にあった。
フィリーは思わず振り向いた。
涙がカミラのハシバミ色の目いっぱいに溜まっている。
カミラは無理に微笑むと、フィリーの肩に手を置き、頭の向きを戻した。