黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい
10.
ギルバートは九年振りにラーゲルクランツ城の王座の間へ戻ってきた。
ブライン砦陥落の混乱の最中、爵位継承の報告を済ませ、そのまま長い闘いに赴いて以来になる。
白い壁に金箔の装飾を施し、シャンデリアの輝きに煌々と照らされた王座の間は、あの頃とは比べものにならないほど華々しく賑やかだった。
ギルバートの好みではないが。
不本意ながら、キール伯爵は今夜の舞踏会のメインディッシュだ。
十年間、戦争にのめり込んで一度も社交界に顔を出さなかった報いを受けなくてはならない。
黒旗騎士団のベルベットのマントにボトルグリーンの大綬を佩用し、黄金の頸飾を下げたギルバートは、本人の好みはどうあれ、洗練された上流階級の男らしく着飾って、ない愛想を振りまいていた。
一夜にして国中の貴族と面会をしたかのような心地がする。
すでに一時間は中座の頃合いを窺っていた。
役目は十分に果たしただろう。
次々に入れ替わる相手の話に適当な相槌を打っていると、肘で背中を小突かれた。
振り返るより先に、オスカーがギルバートの肩にがっしりと腕を回す。
「舞踏会がこんなに楽しいものだとは知らなかったな。エールでも飲まないか」
「いい考えだ」
ふたりは肩を組んだままアルコーブへ向かい、給仕からエールを受け取った。
グラスを傾けて乾杯する。
オスカーはそれを一気に飲み干し、愉快そうに口の端を吊り上げた。