黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい
「今夜お前が何人の令嬢とダンスを踊ったか教えてやろうか」
ギルバートがうんざりして首を振る。
「六人だろ」
ダンスの相手は全員、オスカーやハーヴェイのように家族の反対を押し切って領地を飛び出し、黒旗騎士団に加わってくれた仲間の妹や親戚だった。
無下にできるはずもない。
心底参っているギルバートを、オスカーが愉しそうに笑い飛ばす。
「愛想笑いができるようになったんだ、これでギルも立派な紳士だな。いかにも救国の英雄らしかった。ところで、かわいい恋人はどこにいる?」
ギルバートは眉ひとつ動かさなかった。
「なんの話だ」
空のグラスを掲げると、給仕が新しいエールを運んでくる。
オスカーは大袈裟に目を剥いた。
「朴念仁のお前がひと目で惚れた、砂糖菓子みたいな女の子だ。美人で華奢で、目に透けるくらい儚げで、どうしても守ってやりたくてわざわざ王都まで連れてきた」
ギルバートは二杯目を喉に流し込み、肩を竦めた。
「屋敷だ。侍女が面倒を見てる」
「なんだ、連れてこなかったのか。意外と過保護だな」
オスカーがニヤニヤしながら三杯目を受け取る。
ギルバートは壁に背を預けて腕を組み、貴族たちが遊興する煌びやかな舞踏会を眺めた。
こんなところにフィリーを連れてきてやれるはずがない。
今夜ギルバートといればただでさえ嫌というほど注目を浴びるのに、あの容姿では王都中の噂になってしまう。
キール伯爵の女に横から手を出そうという輩はいないはずだが、身分もない町娘だと思えば余計な虫も寄ってくる。
だいたいフィリーは、正体を隠さなくてはいけない身だ。
国王の気が変わっていなければ。