黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい
突然、大階段の付近が色めき立った。
ギルバートは人々の頭越しに出入口へ目を向ける。
危うくグラスを落としそうになった。
控えの間から続くバルコニーにリチャードが姿を見せ、ゆっくりと大階段を下りてくる。
女の手を引いていた。
オスカーが感嘆のため息を零す。
「どこのご令嬢かな。ものすごい美人だ」
女は翠色のドレスを纏っていた。
白い鎖骨と華奢なウエストはガラス細工のように繊細で、控えめなフリルの隙間にクリーム色のジュープが覗き、本人の上品な美しさを際立てている。
ほっそりとした首を黒いチョーカーが飾り、小さな顔には豊かなまつ毛に囲われたアーモンド型の目と薔薇色の唇が収まっていた。
シャンデリアの光を浴びて白金に艶めく亜麻色の髪は、思わず触れたくなるほど優雅なカーブを描く。
時が止まったように誰もが彼女を見つめ、沈黙をもってその可憐さを称賛した。
まるで薄ら氷の如く、それでいて凛とした花に似ている。
国王と翠色の娘が大階段を下りると、王座の間は静まり返り、人々は頭を垂れた。
オスカーが怪訝そうに目を細め、勢いよくギルバートを振り返る。
「フィリーじゃないか!」
そんなことはわかっている。
逃亡中の埃を被った身なりでさえ、器量のいい女だった。
王女にふさわしく飾り立てればオスカーが惑わされるのは当然だが、ギルバートがフィリーを見間違うことはない。