黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい

ギルバートはほとんど不愉快な気分でふたりを見ていた。

リチャードの思惑が読めない。
いつの間にか王のそばには宰相エルメーテが控えていて、これが単なるリチャードの気まぐれではないことを示している。

リチャードはフィリーを連れ、有力な名家の者から順に声をかけていった。

旧くから王家と親交の深いヴォレゴア公爵夫妻、三百年前の非嫡出子まで遡るデンバリー公爵、国王軍最高司令官を務めるドンジェ公爵。

彼らは当然、王が伴う見慣れない女に目を向ける。
フィリーはその度に恥ずかしそうに頬を染めた。

オスカーがギルバートの脇腹を小突く。

「考えていることを当てようか。俺の女に話しかけたやつは真二つに叩き斬ってやる、だろ。近くに行ったらどうだ、お前の恋人だ」

ギルバートの顔はいっそう険しくなった。

リチャードはなにを考えている?
フィリーを大勢の注目に晒し、強く印象づけようとしている。

あれだけ着飾らせ、国王自らもてなせば、ギルバートが国境の町で見かけた身分のない娘だと言い張るのは難しくなる。

ミネットの王女を匿うのはやめたのか。
ギルバートを王女誘拐の罪人として糾弾するのなら、彼女を丁重に扱ってみせる必要がある。

ふと、国王のそばへ進み出る男が見えた。
数年前の婚姻でリチャードと遠い親戚関係になったドレバス侯爵モーリッツだ。

リチャードがドレバス卿に微笑みかける。

ギルバートの首筋を本能に似た怒りが走り抜けた。
頭が冴え、呼吸は浅く静かに、瞳孔は拡がり、神経の隅々に警告が響き渡る。

リチャードはフィリーを利用する気だ。
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