黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい
16.
伯爵邸の廊下はひっそりと静まり返っている。
ギルバートがロープの結び目を解く間、フィリーは一生懸命に言い訳を探した。
親切心から煙突掃除を申し出たわけではないし、決してミネットがしたことの償いに足りるとも思っていない。
「ごめんなさい、ギルバート。怒らないで聞いてほしいのだけど」
フィリーはギルバートの器用な指先を見ながら、沈黙を埋めるように早口で話しかけた。
「急に客室の暖炉で煙が逆流してしまったの。でも、煙突掃除をできる人がなかなか見つからなくて。それで、ブロムダール城の煙突掃除人が、時々私を屋根の上まで連れていってくれたことを思い出したんだけど、掃除のやり方も覚えていたし、すごくいい考えだと思って……」
結び目がゆるんで、ふたりをつないでいたロープが床に落ちる。
ギルバートがフィリーの手首を掴み、壁に押しつけた。
つたない言い訳をキスで遮る。
頬骨に影を落とす黒いまつ毛の下から、鋭いシアンブルーの目がじっとフィリーを見つめていた。
ギルバートの冷たい唇が、胸をぎゅっと締めつける。
フィリーは慌ててまぶたを下ろした。
背の高いギルバートが覆いかぶさり、鍛え上げられた身体で押さえつけてくる。
息継ぎをする隙間さえ許されず、零れた吐息をギルバートのキスがすぐに塞いだ。
噛みつかれるようなキスに、フィリーの足もとが溶け始める。
すがるものを探す右手を捕まえ、ギルバートの左手が握り返した。
力強い腕が背中を引き寄せる。
強引で優しいキスがフィリーを慰め、気がつけばギルバートの胸に寄りかかっていた。
下唇に歯をたてて、ギルバートがゆっくりと身体を離す。