ある日、ビルの中、王子様に囚われました。
三、二兎追うものは?

その夜は、お兄ちゃんが疲れ切った顔で現れた。
天宮さんが会議へ戻ってから、落ちつかなかったし部屋中ぐるぐる歩き回ってたし、いつ来るのかなって期待と不安と、変なドキドキが邪魔してたから、正直ホッと安堵したのが半分、がっかりしたのが半分だ。

「頭は大丈夫?」
「人を馬鹿みたいに言うな。たんこぶは出来たが大丈夫だ」

テーブルにドサドサと紙袋を置いて、ネクタイを外してソファに倒れ込む。
私と会話するエネルギーもなさそうだ。
お兄ちゃんが来たということは、天宮さんは来ないんだよね。
そう聞きたいのに、聞けない。

「天宮なら、明日また来るよ。明日もオフィスに顔を出すんだろ?」
「え、ええっと、……なんで私の考えてること読めちゃうの」

「兄弟だからじゃない?」
ふっと笑った後、ソファに置いてあったクッションを抱き締めながら起き上がる。

「天宮は良い奴だよ。お前、男のセンスは良いな」
「なっ 変な勘違いしないでよ」

プロポーズされたのは私の方なのに、なんでこんなこっちがあたふたして、向こうが余裕で笑ってるのか、それか悔しいけど。

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