下手くそな恋を泣きながら


「っとに、お前は危なっかしい・・・」

部長がよろけなかったらこんなことにならなかったもん。と思いながらも、その、心底安堵したような優しい口調は、私の気持ちを心地よくさせた。


そしてようやく


″誰もいないオフィスの密室で倒れこんだ成人女性の上に覆いかぶさる成人男性″の図になってることを思い出して、慌てて体勢を整えた。


「ご、ごめんな。」

「つ・・・連れてってくれたら許します!」


我に返った途端、あまりにも近かったことを思い出して、恥ずかしさ故に、目を合わせられない。


「まだ言うか?」

「連れてってくれないなら、部長のことも行かせないんだから!!」


「だから・・・

・・・あいつは既婚者だぞ?」


突然、声のトーンを落とす部長。


見ていなくても、部長がお人好しで私を心配して悲しい顔をしているのが、なんとなく見えたような気がした。


「分かってますよ。

ただ

同じ空間にいたいだけです・・・」

俯き呟くと、部長のため息が聞こえてくる。

そして

私の頭をぽんぽん叩くから、視線を上げると、部長は携帯を耳にあてていた。



「春坂?たまたま森山も残業してて一緒にいたから、森山も誘ったから。」

用件を伝えて電話を切ると「お前には負けたわ」と呟いた。



「一緒に行ってもいいんですか⁉」

興奮して聞くと「好きにしろ」と吐き捨てるように言ったあとで、優しく笑う。


そんな優しい部長を上司にもてて、私は幸せです。


< 49 / 147 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop