下手くそな恋を泣きながら


帰りの電車のことも、頭になくて

″会う″以外の目的もなかった私達は、駅から出ると、知らない街中でどこか入れるお店がないか探しながら散歩のように、のんびり歩いた。

学生だった頃、忙しい先生の歩幅が広くて、早くて、慌ただしいと感じていた。

今、先生は私の歩調に合わせてゆっくり歩いている。

何から話したらいいのか?

何を聞いてあげることが良いのか分からなくて

足下を見ながらそんな事をぼんやりと考えていた。


「彩葉、俺、卒業していった生徒で個人的に連絡をとったのは彩葉が初めてだ。」

″初めて″

その言葉のくすぐったさが胸を高鳴らせる。


「こういうの、ひいきしてるっていうのかな?

俺自身は今まで皆平等にしてきたつもりだったんだ。

誰か一人だけ特別扱いなんてしたつもりはなかった。」

誰かを特別扱いしない。

悲しいけれど・・・知ってる。

でも、そんな先生だから皆、大好きだったのも事実で

私は特別、そんな先生に惹かれた一人だった。

「何か・・・生徒との間に何かあったんですか?」

私の質問を聞いて

先生の足が止まる。


振り返ると見たこともない、今にも泣きそうなほど悲しい笑顔を浮かべた先生が、暫く私を見つめたあと「他愛ないことだよ。」と呟いて、また歩き始めた。


< 95 / 147 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop