副社長と愛され同居はじめます
「私のこと、成瀬さんから何か聞いておられますか」
いえ、何も。
全く。
と言うのが、酷く悔しかった。
だけど、結局それが事実でしかなくて、私は「いいえ」と頭を振った。
「あら……そうなの。やっぱりいい難いのかしらね」
人差し指を顎に当て、考えるような素振り。
少しわざとらしいと思ったのは、多分気のせいじゃない。
「……わかりませんが。ただ、私が心配するようなことではないとそれだけ」
「そうね、今の段階では」
「どういう意味ですか?」
含みを持たせて、私にわざと聞かせようとしてる。
そんな空気をちゃんと感じ取っているのに、聞かずにはいられなかった。
「今は、あなたが心配するような関係じゃなくなっただけ。それと、あなたが心配しなければいけないことが、まだ起こってないだけ」
コーヒーカップを手に取って、彼女が口を付けた。
その一連の仕草を見ながら、彼女が決して私に良い感情を持って会いに来たわけではないことと、成瀬さんが言った心配にはどうやら二種類の意味があることを確信する。
「もう少し。具体的に教えていただけると助かるのですが」