副社長と愛され同居はじめます


成瀬さんが、彼女が来ていることに気づいて応接室に乗り込んで来たのは、それから十数分後のことだった。


乱暴に扉が開け放たれて、眉間に深く皺を刻んだ成瀬さんが足音も荒く私達に近づく。


そんな常人が見ればすくみ上りそうな雰囲気にも、梨沙さんは全く物怖じせずに成瀬さんに抱き着いた。



「柊さん! 会議お疲れ様」

「離れろ。香水臭い」



成瀬さんは、問答無用で彼女の額を手で押し返し、引き剥がす。
なるほど、こうしてあの日スーツに香りが移ってたんだなと納得する。



「なんでこんなことになってる?」


という厳しい質問は、彼女と私の両方に向けたものだった。



「すみません、あの、」

「小春さんを怒らないで上げて、私が無理言ったのよぉ。だってどうしても柊さん諦めたくないんだもの」

「お前ならいくらでも相手が見つかるだろ。なんなら俺が見合いをセッティングしてやる」

「柊さん以上の人なんていないじゃないの! ねえ、小春さんお願い。考えておいてね? 勿論、無理は言わないけどぉ」



ぴょこん、と可愛らしく、彼女は私に向け両手を合わせ、お願いポーズをする。
成瀬さんが来た途端に、なんだか声のトーンも可愛らしくなって、はは、と私は苦笑いをした。


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