副社長と愛され同居はじめます
「そろそろ、返してもらってもいいだろうか。かけた金額と時間の分くらいには」
「えっ、ちょ、待って。かけた金額と時間の分って、言い方がなんかセコい!」
「なんとでも言え。慈善事業じゃあるまいし、俺が何も期待してないと勝手に決めつけたお前が悪い」
にや、と唇を歪めたその黒い表情がとても善人とは言い難い。
だけど、私の手を恭しく持ち上げ手の甲に口づける様は、まるで物語の中の王子様のようで私にお姫様になったような錯覚を抱かせる。
そして唇をあてたまま、もう片方の手の指が私の唇に触れた。
「見返りは、小春自身」
「は、え? わ、私?」
「今夜のところは、唇だけと言ったところかな」
指先が、唇の柔肌をなぞった。
その心地良さに、意識を持っていかれそうなほどで、つい目を細めた。
「く、唇だけって……」
私に買い与えた、ドレスに靴に装飾品。
通い詰めて彼が店に落とした金額は、私がもらったお給料の何倍ほどになるのだろう?
見返りに欲しがるものが私の唇だなんて、高値もいいところ。
「それ以上もらえるんなら遠慮なくもらうけど」
「えっ?! いや、それは無理!」
高価買取でお願いします!
慌てて拒否すると、彼は「失礼だな」と言って苦笑いをする。
そして、指を撫でていた手が離れたと思ったら。
ぐい、と強く手を引かれ、抱き寄せられた。