副社長と愛され同居はじめます
「全部、って?」

「全部って言ったら、全部」



指先が私の頬を撫で首筋を辿る。
私は蜜の空気に融かされて思考力も殆ど働かず、この時はまともな返事は何一つ出来なかった。


やっと冷静に考えることができたのは、アパートに着いて、一人ぺたんと安物のラグの上に座り込んだ時だった。



「……本気?」



―――小春の全部を貰うまで


唇だけじゃなく、この先私は自分を少しずつ彼に差し出すことになるのか?


その意味がわからないわけはなく、キスの余韻もあってか呆気なく身体の熱は上がっていく。


つまりあの人の目的は、私だということだろうか。
成瀬さんの言葉を信じるなら、そういうことだ。


だけどなぜ私。
成瀬さんならもっといくらでも相手が見つかりそうなもので。


私の全部を買い上げた時、彼は私をどうするつもりなんだろう?
愛人にでもするつもり?


それなら、少しは合点がいった。


成瀬さんほどの人なら、結婚相手は当然同じくらいお金持ちのお嬢様だったりするだろう。
それも多分、好きだなんだの恋愛感情よりも会社の都合が優先だったりするのかもしれない。


そういうふさわしい相手と結婚するまでの間の、ちょうどいい、おもちゃを見つけたようなものなんだきっと。


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