街が赤く染まる頃。ー雨 後 晴ー



結局、それから心優は戻ってこなくて
この親父とひたすら野菜を洗っては話していた。

なんならあと2時間しかない。ここにいられるのも。


「あのさ、父さん」


「ん?なんだ?」


「俺、両親いないんだよね。」


「え?」


「二人とも俺が中学の時に病死で。
高校生になってからずっと一人暮らしだったんだよ。」


「……そうか、寂しいな。」


「いや、そうでも。それが当たり前だったし。

……でもさ、今日母さんに『おはよう』って言われて、母さんの作った朝飯を食ってさ
なんかすげー懐かしかったんだよね。

そういや俺にも親っていたんだったな、って。


…でも、なんかずっとモヤモヤしてんだよね。」


懐かしい。本当にそう思うのに、なんか違うんだって…


「そりゃ、お前
俺も母さんも、大翔の本当の親じゃないからだよ。

今はお前らを預かってるから家族だ。
だけどな、ここはお前らの帰る場所でもない。

俺らとお前ら親との違いは、お前ら子供を思う心だと思うけどな。

どんだけ大きくなっても親は親で子は子だ。
どんだけ大きくなっても帰る場所ってのは常にあるもんだよ。
だけど大翔にはもうそれがないから、きっとここで懐かしくなってんだろうよ。

でもな、大翔。
大切なものっつーのは、お前の場所にしかねーんだよ。
起きたらおはようって言ってくれる人がいて、起きたら飯があって、疲れて帰る場所がある。
たったそれだけでも、そこの場所になにもかもが詰まってる。だからこそ、大切になるんだよ。

お前は早くにその場所を無くしたから今はないかもしれない。
だから今度はお前が作っていく番なんだよ。
こんな仮の家族で満足できるもんじゃねぇ。

よーく覚えておけよ。」


……自分で作っていく、か。




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