街が赤く染まる頃。ー雨 後 晴ー
畑を突っ切れば海が見えて、自然と俺はしゃがみこんだ。
すぐにこの涙を止めてまた戻ろうとしたのに
「大翔?」
後ろから、心優の声が聞こえて
でも振り向くに振り向けなかった。
「…悪い、ちょい待ってて」
そう言ったのに、
「……え」
「泣いてもいいよ。
私、見ないから。」
俺は、心優の温もりに包まれていた。
前には心優がいて俺の上から心優の声がしていた。
そんな状況で、また俺は泪が出る。
「…最後に誕生日を祝ってもらったのはまだ母さんが生きてた頃だったんだ」
「うん」
だけど、泪よりも話したかった
心優に聞いてほしかった。俺の気持ちをわかってほしかったんだ。
「母さん入院してたのに、俺の誕生日に外出許可もらって一時帰宅して
体しんどいはずなのに、ずっとキッチンでなにかしてて
しばらくして出てきたのは、生クリームに缶詰のフルーツが乗ったケーキだった。
切ってみたらそれがホットケーキでさ」
「え、それって」
「そ。さっき、心優が作ってくれたやつとまったく一緒で
……母さんは菓子とか作るのが好きで、よく作ってくれた。
そのケーキを俺に出したとき、手抜きでごめんねって言ってたけど、今まで食べてきたケーキの中で一番うまくて
…それが、俺にとって最後の誕生日ケーキだったんだよ。
だからなんか、さっき心優のケーキ食べたら一気に思い出してきて…」
「……そっか、なんかごめんね。」
「いや…
……似てたけど、でもやっぱ違うもんだな。」
「…どうせ料理は下手ですよ。」
「そうじゃなくて
……うまかった。めっちゃうまかったよ。
俺好きだよ。」
母さんとは違う、なにかが足りなくて
逆に母さんとは違うなにかが入ってる気がする。
「…ちゃんと、心優の味だった。」
同じものを使ってたとしても、この世にひとつしかない心優のケーキだった。