街が赤く染まる頃。ー雨 後 晴ー



「にしても大翔遅かったね?
あの後どこか行ってたの?」


5年。
俺と心優にはそんだけのブランクがあんのに、心優はそんな5年なんか全く感じてないかのように話しかけてきて
…あの頃の思い出が、俺の中に鮮明に甦ってくる。

あの頃の続きみたいに。


「あー…、職場。店にな。
誰かさんが断るから怒られに行ってきたんだよ。」


「へー、怒られたんだ?」


ほら。俺に向ける笑顔はやっぱりあの頃とは変わんなくて
また俺の心までもを染めていく。


「怒られたわ。
心優の言ったことそのまんま伝えたら『それを説得するためにお前が行ったんだろ!!』って。
超怒られたし。」


「はは、ごめんごめん。
でもそこは絶対譲れないから。」


「…ま、お前の心はわかるけどさ」


痛いくらいに、俺の胸をグサグサ刺した、お前の思いを。
一人ぼっちになってしまった小さな子供が一人でも買いに来れるように、か…


「大翔は?なんでシェフになったの?」


「あー、俺にできることなんかそれくらいじゃん?」


「頭悪いもんね。」


「るせぇよ!」


「あ、ほら食べなよ。ビールきたよ。」


「…シカトかよ。」


ま、いいけどさ。

……でも、な…
いつもお前が俺の作る飯を笑顔で食べてくれたから。

あんなに不貞腐れてた心優を、俺の料理が笑顔にした。


━━だから、たくさんの人を笑顔にできるのかもって
また明日から頑張ろうって思ってくれるかもって

そう、思ったんだよな。


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