夢物語【完】
「いい加減にしろって」
笑いすぎて涙すら浮かべるあたしにとうとう怒ったのか寝ころんでることをいいことに上に被さってきたことに気付いたあたしはピタっと笑いが止まった。
超至近距離なんですけど。
「高成?」
「なに」
「怒ってんの?」
「当たり前だろ」
ですよね...口調でわかるもん。
じゃあ聞くなって話やけど、たーくんって呼んだのも悪かったのかも。
「なんで?」
「サラとキスしてんじゃねえよ」
「・・・そこ?」
「は?」
そこかよ?!って突っ込みたいのを我慢した。
京平も高成もちょっとズレてると思う。
陽夏ちゃんとあたしがキスするわけないし。
今頃陽夏ちゃんは京平に怒られてて、あたしは後日高成の携帯から文句を頂戴するんやろう。
考えただけでも溜息が出る。
あの男、正直ちょっと疲れる。
「溜息吐くんだ?」
「いや、違う!!考え事してたっていうか、その、高成じゃなくて!」
「俺といるのに考えごと?」
「いや、そのっ!」
しくじった。無意識に考えてたとはいえ、高成が覆い被さってることを忘れるなんてどうかしてる。
ダメだ、恐怖で心臓が早くなる。
京平はもちろんやけど、こっちもたいがい怖い。
「誰のこと考えてた?で、なんでサラにキスした?」
徐々に近付く高成の顔。
いつ見ても綺麗な顔。
こんなカッコイイ人があたしの彼氏でいいんやろうか、といつも思う。
「涼、答えろ」
残念なのはいつもの優しい高成じゃなくてブラックが降臨してるっていうこと。
悲しいかな、今は優しい言葉も顔も絶対してくれん。
そう、この質問に対して納得する答えを出すまでは。
「えと、京平と陽夏ちゃんの事を考えてて、陽夏ちゃんとはキスしてません」
「京平?」
「違う、京平と陽夏ちゃん」
陽夏ちゃんの名前を強調して言うたけど、なんでそこだけクローズアップっていうかピックアップするかな、と毎度ながら困る。
忘れてたけど、あんなことがあった後なんやから心配もするし、気になる。
「キスはなんで?」
「えと、嫌がらせ?」
その言葉にピクリと眉を動かす高成に言葉足らず!と気付いて、「違う!京平に!!高成じゃなくて、京平にやから!!!」と必死に言い直した。
そのつもりやったから唇にしてるようにあんまり角度つけんとほっぺにした、というのもしっかり言い直した。
高成がこの反応なら京平には絶大な効果があるはず。
ざまーみろ!目の前に高成がおるから心の中で爆笑してやった。
「アイツ、赤面してた」
まだ納得しきれんらしい高成は何かと理由をつけてくる。
この赤面に関してはあたしもどうしようもない。
だって顔を見たらそうやったんやもん。
女のあたしが相手やのに赤面されて、あたしもびっくりしたんやから。
「それにしても」
覆い被さってた高成は腕が疲れてきたのか体を起こして隣に寝ころんで、向かい合わせになる。
少し高成の方が頭が高くて見上げるあたし。
見下ろす高成。
繋いだ手。
・・・呆れた顔。
言いたいことはなんとなくわかる。それについてはあたしも反省してる。
「彼氏の俺を無視ってどうなの?」