夢物語【完】

「俺の計画ぶち壊すんじゃねぇ...」

はぁー、と溜息吐いて下から覗き込むように見上げられる。
その瞳にドキリとする。

動けんくなるような、

「涼、おいで」

絶対背くことを許さん支配者のような、

「涼、来い」

優しくて、でも強い声に身体が意思なく動かされる。


あたしが手の届く範囲まで来ると高成の手が伸びてくる。
左手が絡まる。
確認するようにギュッと強く握りしめる。
右腕も掴まれる。
クッと引かれて高成との距離が縮まる。

「高成?」
「ありがとう」

左手で抱きしめられる。
服越しにも感じる高成の体温。

上から見下ろすことってめったにないから新鮮。
目を閉じた高成のまつげが震えてるのがわかる。

肩に置いてた手を頭に移動させて髪を撫でる。
髪はいつもワックスで無造作にセットされてて触ることなんかなかった。
でも意外と柔らかい。
猫っ毛かぁ、とか思ったり。
これはセットすんの大変かもな~ってフッと笑うと「なに笑ってんだよ」と下から睨まれた。

「睨んでも怖くないし」
「睨んでねえし」
「こうやって頭抱えるんも悪くないね。で、あたしへのプレゼントは?」

ちょっと調子の乗ったあたしは高成の髪をいじりながらプレゼントを促した。
だって、この部屋に来たときは完全に手ぶらで荷物はたぶんリビングに置いてるはず。
持ってないのわかってるけど意地悪のつもりで言っててみた。
しかも、あたしが渡したプレゼント手に取らずに放置したままやし、見ようともせんし。

それに対してイラっとしたのはあるけど、今はそれよりもこうしてることが嬉しいし、あたしにしたらこうして高成が来てくれたことがプレゼントって感じで、もうすでに満足。

「てか、今日ライブは?クリスマスの特別ゲリラライブ!」
「・・・」
「ちょっと、無視?」

あたしがなんぼ話しかけても無視で腰に抱きついたまま離そうともせんし全く動かん。
この体勢もちょっと恥ずかしいんやけど、とはなんか恥ずかしくて言えん。
だから、いじってた髪をちょっと掴んでクイッと引っ張ってみた。

「痛っ!絶対教えねー」
「なんで?!」
「さっきも言ったじゃん。俺の計画ぶち壊されて不機嫌なの。それに立て直そうと思っても誰かさんの行動が普通じゃないから立て直すタイミングが見つかんなくて、もう何もしたくないの」

完全に拗ねてるらしい。
腕を強めて隙間なく抱きしめると頬をすり寄せて思い出したように目を開けた。

目が合うと瞬時に反らされた。
子供かよ?!でも、そんな高成も可愛い、と思うあたしは乙女なんやろう。

「計画って今からでも立て直しきく?」
「どうだろ」
「拗ねるなよ~」

完全に目を合わせることもせんくなった高成に笑いながらセットした髪をくしゃくしゃと撫でてやる。
それでも全く抵抗せん高成にちょっと戸惑ったけど、これはこれでいいらしい。
なんやかんやいうて、今のままでも充分満足やし、このままでも全然いい。
< 112 / 176 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop