夢物語【完】
どうしよう、バレたで、高成。
『あと30分くらいで着くから』
「わかった。待ってる」
電話を切ると溜息が出た。
これからどうしよう、どうやって誤魔化そう。
相手が大好きなアーティストで、遠距離恋愛で、今日会いに来るんやって知ったら・・・考えるだけで恐ろしい。
「とりあえず」
部屋を出てリビングへ行く。テーブルではお母さんが自分の前に座るように手で促していて、あたしはそれに従って席に着く。
何よ~溜息ばっかり!!ってお母さんは言うけど、顔は終始笑顔。
その笑顔が怖いんだっつうの。
「で?」
手を組んで顎を肘で支えたお母さんは簡潔に話せと言わんばかりの笑顔で私の言葉を引っ張り出す。
「その、これから人に会ってきます」
「それは誰なん?」
「か、彼氏?」
「なんで聞くわけ?聞かんとあかんほど微妙な関係の人?」
「いや、そういうわけじゃ」
「彼氏なん?友達なん?どっち?」
彼氏です、と正直に言ったはいいけど、顔が、お母さんの顔が、その笑顔がほんまに怖い。
目なんて合わせたら親やのに食われそうで怖い。
「写真は?」
毎日見てますよ、なんて言えやしない。
「な、ない」
何よぅ、残念~なんて笑ってるけど、その笑顔がさっきから怖いんですよ。この人は何考えてるかわからんからなぁ。
「その子、連れて来なさい」
はい?いや、無理でしょう。
アナタ、バカデスカ?
「いや、無理やろ」
「何言ってんの。彼氏なら挨拶に来るのが常識でしょうが」
そうかもしれんけどさ。
あたしと高成だって付き合って初めて会うんやで?出会った時から数えても3回目やで?やのに、親に会うって窮屈すぎん?
「あ、時間いけるん?」
「あ?!ヤバイ!!」
バッグと車のキーを持って勢いよく出たのはいいけど、「ちゃんと連れてくるんやで!」と叫んでいたのは無視するべきじゃなかった、とこの後になって後悔する。