夢物語【完】
家から駅まで遅くても車で5分。
高成が30分って言うた時間から考えると、着くにはまだ10分ほど余裕がある。
メイク直しの時間を設けたって考えれば、ちょうどいい時間に着く。
駅のロータリーに車を止めて、ハザードを点滅させてメイクを確認する。
さっき嫌な汗をかいたから少し崩れ気味。
ファンデーションを塗るほど崩れてないから、おしろいで少しカバーして、とれかけたグロスを少しだけのせて唇を合わせて馴染ませる。
あの頃と少しは変わってるつもり。大人っぽくもなってるはず。
童顔なのは遺伝やからどうしようもないけど、メイクだって上手くなったし、大人っぽく見えるように服のジャンルだって少し変えたし、日ごとかっこよくなる高成と並んで歩いても浮かんように努力した。
褒めてもらえるかな?可愛いってゆうてくれるかな?
ドキドキするあたしを見かねたように携帯が鳴った。
『着いたよ。今から改札出る』
こっちは賑やかだね、と笑う声が耳に響く。
車から離れられへんから少し前に動かして、探しやすいように車から出て高成を探した。
「いた・・・」
あ~、欲目って憎い。こんなけ人がおって溢れかえってても、その人だけはちゃんと見つけられる。その人だけが浮いて見える。
くっきりと、はっきりと、絶対に、あたしの目に留まる。あたしはあの人が好きやって改めて思い知らされる。
「あ、れ?」
高成の周りにおるのはファンの子達やって思ってたけど、違うことに気付いた。あれは多分…
「KYOHEI?」
あの綺麗な顔立ちに、あの雰囲気、絶対そう。
間違いない、このあたしが間違えるはずない。
なんで?の言葉が頭の中をいっぱいにする中で高成の姿がないことに気付いた。
「あれ?な、なに?!」
車から少し離れて立ってたあたしは後ろをとられて両手で目隠しをされた。
「だ、誰?!」
左右の手で目隠しをしてる手を離そうとしても手の大きさからして男の人。
あたしなんかの力では到底はがせそうにない。
高成が来てるのに、こんなところ見られたくないのに。
「なんで俺の名前の前にキョウの名前を呼ぶんだよ。」
「へ?」
ほんとへこむよ、と言って、あたしの肩に顔を埋めて強く抱きしめた。
「高成?!」
「うん」
「ほんまに?」
「うん」
「ホンモノ?」
「うん」
後ろから抱きしめられてて顔が見えん。
あの日から変わってない匂いで後ろに立っている人が高成本人やってわかってるけど、何度も何度も確認してしまう。
高成もしつこいって言わずに答えてくれる。
高成が「うん」って言うてくれるたびに現実なんやって感じて胸が熱くなって、涙腺も緩くなる。
前にまわってる高成の手と自分の手をぎゅっと絡めて、溢れそうな涙を堪えるために俯いたら、こぼした涙があたし達の手の上に落ちて、しくった!と思った瞬間に体が半回転して、高成の胸の中に収まった。
今度は背中に回った高成の腕が強くなって、あたしを真っ正面から抱きしめる。苦しいくらいの抱擁に驚いたけど、高成の匂いに包まれて、それすら心地良い。