夢物語【完】
「じゃあ、解散するか!」
あたしが腑に落ちずにウダウダしてる間にKYOHEIと女の人の言い合いも当然終わってて、女の人はKYOHEIの後ろで小さくなってた。
話を聞いていると、ここに来る前に今日の宿は決めていたらしく、そっちに荷物を置かせてもらってから観光を楽しむ計画らしい。
高成は他のメンバーよりも断然荷物が少なく、メッセンジャーバッグに収まってた。
どうせ一日だけなんだから、たくさんいらないだろ?って言うけど、他のメンバーと比べるとえらい差があるから、あたしが変に心配になる。
「大丈夫だって!じゃあ、キー貸して」
高成があたしの目の前に手を差し出す。
わけがわからんくて首を傾げると少し膨らんでた右ポケットから車のキーを取ると早々とカギを開け、助手席に座るようにとあたしを促す。
運転席に高成が座って車を発進させた頃には、もう他のメンバーはおらんくて小さな車にあたし達ふたりだけやった。
あたしが思ったことは多々あった。
なんであたしが助手席なのか、 免許は持っているのか。
初めての道なのに、どこへ向かっているのか。どうして鼻歌を歌っているのか。
何かと聞きたいことはあったけど、とりあえず一番聞きたいことだけ聞いてみた。
「どこに向かってんの?」
信号で車を止めた高成がこっちを見ると、歯を出して笑う。
「秘密」
なんで?と思ったけど、ここは追及せずに「道知ってんの?」とだけ聞いた。
「聞いたの。デカイ道でしか行けないけど」
なんか、デートって感じだよな~って笑った横顔が可愛かった。
それから15分ほど走って見えてきたのは昔よく来た大きな建物。あたしはここに来る度に大はしゃぎしてた記憶がある。
「水族館!!」
建物の側面には様々な魚やイルカ、クジラの絵が書かれていて、その建物を見るだけであたしは興奮する。
「イルカ!!ヤバイ!!めっちゃテンション上がってきた!」
興奮するあたしは運転する高成の左袖を思わず掴んで上下に振った。
「服伸びるし、興奮しすぎだから」
そんなに喜んでもらえるとは思わなかった、と興奮するあたしの横でニコニコしながら言った。
興奮するのも当たり前。
あたしの小さい頃の夢はイルカの調教師。
それくらいイルカが大好きで、ほんの数年前まで本気で水族館に勤めたかったっていうエピソードも密かにある。
それくらい水族館が大好きなあたしが高成に連れてきてもらえるなんて考えもしてなかったから、興奮は二倍で、あたしのテンションは上がりきってる。
慣れた動作で車を止めると、車の鍵を閉めた高成が助手席から出て水族館の建物を見ているだけで興奮しているあたしの背中を軽く押して歩き出した。
「水族館久しぶりすぎてドキドキしてきた!」
ワクワクを通り過ぎてドキドキしてきたあたしは右手を胸にあてて、なんとか落ち着こうとしたけど、やっぱり無理。
隣で歩く高成に、子供みたいだね、って言われたような気がしたけど、右から左に流れた。