夢物語【完】
ここ最近のあたしはおかしい。
高成との電話でも無意識に素直に“寂しい”とか言って、ひとりで赤くなってることがある。たぶん、どうかしてる。
俯くしかないあたしの右手がぎゅっと強く握った高成がとんでもない早さで歩き始めた。
「え、え?ちょっと、高成?」
コンパスの長さが違うって知ってんのかしら?
高成が大股でぐんぐん歩くけど、短足のあたしは小走りで脚が絡まりそうになりながら付いていく。
「ちょ、高成!手、痛い」
「あ、ごめん」
今まで無意識やったようにハッと意識をあたしに向けて、繋いでいる手の力を緩めた。
手の力を緩めるとまた歩き始めた。
今の出来事なんて何もなかったかのように次の場所へ、また次の場所へと歩いていく。
わけわからん・・・そう口にしそうだったけど頑張って抑えた。
いらんこと言ってケンカになったりするのも嫌。
行く場所全てで優しく笑うから、あたしはやっぱり集中出来ん。
どっちかっていうと、高成に集中してしまう、みたいな。
あたしも乙女なんやん、って恥ずかしくなる。
「あの、もしかして、TAKAさんですか?」
後ろを振り向くと、女の人が2人真っ赤な顔で立ってた。
視線の先は高成。
そう、バレた。
あたしとしては結構遅かったなって感じ。
水族館に着いた時点でファンに囲まれるんちゃうかって頭の隅の方で思ってたけど、案外バレんもんやった。
高成を見つめる女の人はどちらも綺麗で可愛い。
顔がちっちゃくて、首、腰、脚、すごくラインが綺麗。
隣で手を繋いでいるあたしと比べるなんて恐れ多いくらい。
当の本人は唖然としたまま立ち止まって固まったまま。
どうやら気を抜いてて、声をかけられたことに驚いているらしい。
「た、高成?」
瞬きすることも忘れているらしい。
「高成?なぁ、聞こえてる?て、うわ?!」
あんまりも長い間硬直するもんだから、正面に回り込んで手を振ってた・・・ら、口端が上がった瞬間、手を引かれて猛ダッシュ。
女の人達はその行動について行けず、ただ驚くだけで追いかけてくることはなかった。
「ちょっと!!た、たか…っ!あ、足!足がもつれるっ!!」
運動音痴のあたし。足の遅いあたし・・・に加えて、コンパスの違いすぎる高成に引っ張られて、いつでも転ける準備は整ってる。
息はあがるし、ちらっと見えた高成の顔は笑ってた。
何が楽しいのか知らんけど、本気で転けそう。
もう、疲れた……と思って、転けることを覚悟で足を止めようとしたら浮いた。
もちろん、あたし自身が。
「へ?!」
「ちょっと我慢してて!」
あたしを軽々と持ち上げて、担ぐように館内を走り出した高成を止めることもできず、ただただ叫んだ。
「待って!待って!!おろして!!」
「ヤダよ」
「恥ずかしいってば!!おろして!!!」
「そうやって叫んでる方が恥ずかしくない?」
「この状況全てが恥ずかしいわ!!」
他のお客さんの視線を見んくても感じるあたしはそれを見んようにきつくきつく目を閉じた。
高成はあたしとは正反対で、あたしを担いで走ってるのに息もあげずに、叫びまくるあたしの返答も超冷静。
もう、どうにでもしてくれ…と諦めかけたとき、やっとあたしをおろしてくれた。