夢物語【完】
「半年ぶり~」
コインパーキングに車を止めて、歩いてきたのはライブハウス。
あたし達が出会った場所。
思い出深い場所かって言ったらそうかもしれんけど、残念ながらあたしはそう思わんくて、どっちかっていうと、あの隠れ家的なCDショップの方が思い出深いような気がする。
偶然通ったショップ。
あの時、キラキラした人混みの方へ行っていたら高成には会えてなかった。
冒険だ!って脇道に入らんかったら高成に会えんかった。
そう思うと、あの道を選んだことは“偶然”や“たまたま”じゃなくて、あの道を選ぶことが、あの道を選んだことが、高成に出会うことが“運命”やったんちゃうかって思う。
あたしの勝手な考えで、少し過剰になりすぎてるのはわかってるけど、そう思ってしまうくらいあの再会は驚いたし嬉しかったし、あの日がないと今のあたし達はない。
「運命って感じしない?」
一瞬、本気でエスパーかと思った。
考えていたこと全部無意識に口から出てたんちゃうかって思うくらいタイミングが良かった。少しドキドキしたけど、そうじゃなかったらしい。
「今、本当に幸せだわ」
多分、同じことを考えているんやと思う。
どんなことをどういう風に考えて思っているのかわからんけど、あたしを見る高成の顔がすんごい優しいから強ち外れてないんちゃうかって思う。
住んでいるところも、住んでいる世界も、何もかも全て、遠すぎて遠すぎて普通なら出会えんはずのあたし達がこうやって今、隣に並んで手を繋いで歩いてる。
あの時、このライブハウスでネックレスを落とさんかったら出会うこともなかったし、こうしていることもなかった。
そう思うと、少し怖くなった。そして、この運命的な出会いを大切にしようと思った。
なぜか急に高成が愛おしくなって、繋いでいた手を離して高成の背中に手をまわし、ぎゅっと抱きしめた。
こうやって抱きしめるだけで、高成を想う“大好き”という気持ちが全部伝わればいいのに!って思う。
わかってる。
色ボケやってわかってる。
キモイってわかってる。
わかってるけど、真剣にそう思うくらい愛おしい。
会えんかった半年間をこれだけで埋められるわけないのはわかってるけど、高成に注ぐ愛情全てを半年分渡したいって思うあたしはおかしいのかもしれん。
「涼もあんまり人の目気にしないよね」
それとも計算なの?と覗き込んでくるのは意地悪な顔で、やっと自分の行動の大胆さに気付いた。通り過ぎるお兄さんやお姉さんの視線が痛い。
「別に俺はいいんだけどね」
そう言って笑う。
高成を抱きしめてるあたしには本音が見える。
意地悪な顔で冷静な態度の裏にある心臓の音。
「心臓うるさいし」
「そりゃそうだろ」
「冷静なフリしてる」
「そりゃそうでしょ」
「なんで?」
「そりゃあ、ね」
返事になってないし。しかも、1回目と2回目で語尾が変わった理由がわからんし。
「感情のままに動いてたら涼に嫌われちゃうじゃん」
そう言って笑った高成の言葉の意味がわかったあたしは真っ赤になった顔を俯かせるしかなかった。
意地悪してやろうと思って言うたのに瞬時に返されてしまった。
まだまだ高成の方が何枚も上手だと思わされる。
手をひいて一歩前を歩く高成を見つめると高成のあたしに対する愛情の全てを見たいような、見たくないような複雑な気持ちになる。
「なに?」
でも今は振り返って笑いかけてくれるその笑顔で充分。
あたしは充分、幸せ。
「ううん、なんもない」
そう言うと優しく握り返してくれる。
それだけであたしの心は満足。