夢物語【完】
それから服や靴や雑貨だなんやかんやってあらゆる店に入った。
高成はどんな店でも普通に入って行ったから地元のあたしが知らない店も多かった。
お気に入りの服が見つかったらしく嬉しそう。
そして今はあたしが前から気になっていたエスニック系のお店でネックレスを見てたところ。
「7時に丸山公園で集合して飯行くんだ」
「そうなんや。丸山公園やったらちょっと歩くし、ぼちぼち移動せんとね」
手に持っていたネックレスから目を離して時計に移した。
普通に移動したら10分くらいで着くけど、出来るだけ長い時間傍にいたい。かといって、遅刻とか絶対あかん。
これを買うかどうか悩みたいけど、その時間がむっちゃ勿体ないし一回入った店やから今度一人で来たらええねんけど、今欲しいなーとウダウダ悩んでたら高成がネックレスをあたしの手から取って、そのままレジへ向かった。
何をするんやろう?と見てたら、なぜか購入してて、綺麗にラッピングまでされて、あたしの手に戻ってきた。
そのまま高成に背中を押されて店を出る。
「なんで?!」
「欲しそうだったから」
じゃなくて、
「いらなかった?」
「じゃなくて、お金」
「プレゼント」
「は?!」
「いらないの?」
「欲しい!!」
欲しいって言うた瞬間、誘導された!って思った。
眉を下げて言われたら断られへんのわかってて言うんやから。
あたしの返事に納得したらしい高成は再び手を握って歩き出した。
今日は何かとやられっぱなしで悔しい。
高成の行動、言動、仕草、気遣い、その他諸々にドキドキさせられてばっかり。そのくせ、高成は冷静としてて、あたし相手にドキドキなんかしてないみたいで余裕かましてる。
確かにあたしには人を引き付ける要素ゼロやし、細くもないし、可愛くもないし、愛想がいいわけでもないし、そのわり、言葉は悪いし、いいとこなし。
今更思っても遅いけど、今日一日あたしと一緒におって嫌じゃなかったかなって不安になる。
ずっと気にしてないフリしてたけど、通り過ぎる女の人の視線がすごい気になってた。
高成を見て、あたしを見て、再度高成に哀れみの目を向ける人たちの視線が痛かった。
気にしてたら楽しまれへんって思って、ずっと気にしてなかったけど、終わりが近付くと自分のことよりも高成のことの方が気になってしょうがない。
こんなあたしと並んで歩いて、しかも往来で抱きつかれて、他の人の視線も感じながら歩くのは嫌やったよなって申し訳なく思う。
あたしはそれに気付かんほど阿呆な人間じゃないし、自分の容姿にだって自覚はある。でも、高成に「あたしとおって楽しかった?」と聞くような嫌な女になりたくないから、隣で笑う高成がいるならそれでいいかと思うことにした。