夢物語【完】
「ちょっと寄り道いい?」
高成はあたし達が歩く先にある道沿いに置かれているベンチを指した。
二人並んで腰をかけると「さっきのネックレス貸して」と言われて渡すと綺麗にラッピングされていた紐やテープや包みを綺麗に取ると「こっち向いて」と向かい合わせになった。
何となく流れの読めんあたしでも付けてくれるんやろうなって予想できた。けど、なんで向かい合わせ?という疑問が浮かぶ。
普通は背を向けて、付けてもらったら向かい合うんちゃうの?と思ったけど、それはどうやら一般的な考えやったみたい。
高成は少し距離を縮めて右足を曲げてベンチに乗せ、ホックを外すとそのままあたしの両肩と平行に両腕を伸ばす。
そのまま高成の体も近付いて、あたしの顔は高成の胸元に。
高成の顔はあたしの頭の左側にきていた。
ネックレスを付けてもらってるだけやのに、間近に高成がいて、温もりや匂いを感じて、あたしの心臓はバクバクで、多分耳まで真っ赤で俯いてしまう。
あまりにも近すぎるから心臓の音が聞こえんじゃないかと思った。
何分そうしてたやろう。たった十数秒やと思う。でも心臓バクバクのあたしにはあんまりにも長い時間のような気がした。
「よし。付いた!」
高成の声が、吐息が、髪に触れてこそばゆい。
ぴくっと反応すると、そのまま抱きしめられた。
「そんな可愛い反応しないで」
腰を引き付けられてさらに近くなる距離。
もうこれ以上早くできない!ってくらい心臓が動きまくって、この反動でぽっくり逝っちゃうんじゃないの?ってくらい、きゅぅってなって苦しくなった。
左耳に感じる高成の肌があたしと同じくらい熱くて、少し落ち着いた。
心臓の早さも、多分あたしと変わらんくて、それと連動してあたしを抱きしめる強さも強くなった。
……し、死ぬ……そう思った瞬間、腕は緩められて肩をそっと押されて向かい合った。
さすがに目は見れんくて俯いたままやったけど、それも高成によって顔をあげることになる。
「涼、顔あげて」
どんなに恥ずかしくても高成に逆らうことができないあたしは真っ赤になった顔を素直にあげて高成を見つめる。
「うん、似合う。可愛い」
その言葉にまた顔がほてってく。
優しく微笑んでくれる高成にやられっぱなし。悔しいくらいカッコイイ。
自分が思ってる以上に惚れ込んでるらしい。
あたしの首元にはお母さんから貰った誕生石のネックレスと高成に貰った小さな石の付いたネックレスが綺麗な二連で輝いていた。
「ネックレスをプレゼントする奴って独占欲強いんだって」
そっとネックレスのチェーンに指を通して、小さな石に触れてからあたしと視線を合わせる。
「俺のモノっていう“鎖”みたいなもん」
真剣な視線に捕らえられて動けん。その強い眼差しから逃げられん。
ゆっくりと近付いてくる高成と鼻先がくっつきそうな距離。
あたし達は何も言わず、ゆっくりと目を閉じた。
一度離れて、自然と微笑みあって、また重なり合う。
何回繰り返したやろう。
角度を変えて、ゆっくりと優しく包み込むようなキス。
気持ちいいくらいのたくさんのキスの雨にあたしは酔いしれていた。
「……っん?」
何回目かのキスのあと、名残惜しそうに口唇を離した高成はげんなりした顔をした。
「携帯ヤバイくらいに鳴り続けてる」
マナーモードの携帯は留守電に変わると一度切られて、再び震えはじめる。
ポケットから出て来た高成の携帯の画面には“着信 京平”という文字。
暗くなった景色を見て慌てて時間を確認すると7時を15分も超えていた。
慌てて高成を見ると呆れたため息をついて、ようやく電話に出たところやった。
「……はい」
「…わかってるよ」
「あぁ」
「うるせぇよ」
「行くよ」
「当たり前だろ」
「わかってる」
「連れてくよ」
「あぁ、じゃ」
何を言われたのか、この返答ではわからんかった。
携帯を閉じて、もう一つため息をつくと最後に不意打ちでチュッと口唇が触れて笑った高成はベンチから立ち上がった。
「京平が怒ってる。行こう」
当然のようにあたしの手を引いて歩き出した。
「ちょっと待って、あたし行ってええの?」
メンバーとご飯やのに関係ないあたしが行ってええんかと不安になった。
「悟が連れてこいって言ってる。それにアイツもいるから大丈夫」
「そう、なんや」
「じゃあ、行こっか」
あたしの手を引いて丸山公園までの道のりを歩き始める。
高成の言ってる“アイツ”があたしに突っ掛かってきたあの女の子やってことはすぐにわかった。
あの人はファンでもなく、誰かの妹でもなく、“KYOHEIの彼女”なんやってことにも気付いた。だから、高成に前以て言われても驚くことはかった。
ただ、遅れて合流したあたし達の目の前でカップル繋ぎをしているKYOHEIにはびっくりした。