夢物語【完】

だって、あまりにも不似合いで、ファンの心情としてはクール担当のKYOHEIが彼女とカップル繋ぎしてるなんか見たくなかったってゆうのが正直な気持ち。
そんなあたしに気付いてか、チッと小さく舌打ちを返された。

どうやら不本意らしい。ついでに彼女には尻に敷かれているらしい。
そんな雰囲気でも、やっぱりお似合いの二人。
カッコイイ男には綺麗な女が隣に立つべきやでなって二人を見たら嫌でも思い知らされる。
あんなに綺麗ならKYOHEIの隣で並んでも堂々としていられる。

周りから哀れみの目で見られる心配もない。それに比べてあたしはちんちくりんで、可愛くなくて、あまりにも劣りすぎてて、隣で歩く高成に申し訳ないくらい普通の女で、KYOHEIの彼女とは月とスッポンのよう。

考えんようにしとこうって思ってたのに、こうも比べられてしまう対象がいると不安でしょうがない。
同じように手を繋いで同じポジションでおるのに、なんなんだこの差は…と悲しくなる。

足先からすっと流し目で顔へ向けるとすごい睨まれた。
どうやら見ていたことに気付かれたらしい。
あたしはじりじりと足の裏を浮かさず高成の背中で彼女の顔が見えん位置に移動した。
美人なだけに目つきの鋭さは強烈で直視できたもんじゃない。

「ぷはっ」
「?!」

吹き出し笑いが聞こえて後ろを振り返ると、大人フェロモン全開のSATORUがお腹を抱えて笑いを堪えていた。

「い、いや!何でもないから!!」

その言葉をきっかけに声に出して大爆笑し始めた。
それをただただ見つめるだけ。
高成は呆れ顔で、向かいのKYOHEIは2度目の舌打ち。隣の彼女はまだあたしを睨んでる。
そんな空気を割くように鳴りだした高成の携帯。

「悪い、すぐ行く」

そう言って携帯を閉じた高成は溜息をはいた。

「涼介がキレてる。行くぞ」

その一言で空気が一瞬にして変わり、みんな無言で歩き出した。
あんなに爆笑していたSATORUまでピタっと笑うのを止めて無言で歩いてる。
その空気の意味がわからないまま、ただ高成に引っ張られて歩いていた。

心臓はバクバク。
理由はもちろん、この現状にある。
あたしを入れて合計6人。
この有名なお好み焼き屋さんに来てる。

右隣には高成、左隣はドラムのSATORU、その前にギターのRYOSUKE、その隣、あたしの前にベースのKYOHEIで、その隣に彼女が座ってる。
まぁ、どうでもいい。誰がどこに座ろうが、あたしはどこに座ったって緊張しっぱなしに変わりはない。

ただ問題なのはそこじゃない。
問題なのはどうしてこの並びなんかっていうこと。いや、第三者から見たら全くもって普通やってのは、あたしが一番わかってる。
わかってるけど、あたしにとっては普通の状況ではない・・・“普通”に感じられん。
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