夢物語【完】
「いや、なんもない。続けて」
「続けてとちゃうわ!あんたはどうなんって聞いてんの」
「へ?!」
「ボケっとすんな」
高成くんコレのどこがええの?と人差し指でさしながら呆れてる。高成は苦笑するだけ。
口の悪さは昔の素行の悪さが滲み出てるだけで、言い換えれば……“素”の状態。
要は“私を受け入れられんなら認めない”ということ。
母がよくいう台詞。
高成には悪いけど、あたしとしては込み入った話をされるよりはマシで唯一の逃げ道であることに違いない、と思えたのはこの瞬間だけやったらしい。
「だから!こんな身分違いみたいな恋愛しとるけど、あんたは本気で高成くんが好きなんかって聞いてんの」
あぁ、そっちね、とか冷静でおれん。
母は序盤から核心を突いてくる。
ていうか、あたしが迷ってることもうバレた?
とても残念なあたしは一度焦ると冷静になるには時間がかかる。でもこの空気からわかることは、どうやらあたしがトリップしてた数秒の間に、その話まで進んでたってこと。
高成が自己紹介してすぐトリップしてたらしいあたしは母と高成の会話を一部始終聞き逃してるわけで二人がどんな会話をしたか全くわからん。
話の流れ的に高成に自分の彼女があたしでええんかを聞いたらしいけど、そのフリがあたしにも回ってきた。
これはなんとも言えん非常事態。
百面相といわれたからには今の顔ほど複雑な表情はないはず。
自爆って言っても過言じゃない。むしろそう。
焦ってる割には自分を冷静に判断出来てるところがまた複雑で母を見ることも、ましてや隣の高成なんか一切見れん。
その結果、固まった。
意図的にじゃない。素で固まった。
あたしは定まらん視点のおかげで、見たくない2つの顔が目の前に現れても反応せんくて済んだ。
そのあと聞こえた溜息で気が抜けたのか、スッと視界がクリアになった。
「……に……ったら?」
視界がクリアになったけど、どうやら耳の方も塞いでいたらしい。
もちろん手じゃなくて意識的に。
母が言うた言葉が聞こえんくて気付いた。
隣では高成が思いっきり戸惑ってるし母は笑うわけでもなく、真顔。
どうやら良いことではないらしい。
まぁ、あたしとしては今更何が来ても怖くない。
さっきの質問以上に怖いものなんか今のあたしにはない。
「あんたらちょっと話し合いが必要みたいやし、涼の部屋行けば?」
「はぁ?」
「はぁ?って。親が許してんやから」
ほら、と視線で圧力をかけてリビングから廊下に繋がる扉へ行けと促してる。
一瞬考えた自分の部屋。自分で言うのもなんやけど“女の子らしい”部屋からは程遠い。
なんでもモノクロ好きらしくて白や黒やグレーが圧倒的に多くて唯一パステルカラーなのはカーテンと小物くらいで、とてもじゃないけど女の子の部屋には見えん。
元々“女の子らしさに欠ける”部分が多かったから自分で気にしたことないけど男から見たらガッカリされんちゃうかな、と今になって思った。
だから一瞬考えた。
掃除はちゃんとしてるし、物が少ないぶん散らかってることはない。
服は出てないし、掃除は今日はしてないけど昨日はした。
うん、大丈夫!そう思ったあたしは高成へ向き直った。
「じゃあ、上がる?」
「上がる?じゃなくて、上げんの」
戸惑ってた高成も母の一言で諦めたのか頭を下げてあたしを見た。
そんな高成を見て自然に出た苦笑に高成も同じように返してくれた。