夢物語【完】


「・・・」
「・・・」

・・・沈黙。
予想外のことに直面してるあたしは話題が浮かばん。
部屋に上げるつもりなんかなかったし、まさか自分の母親に言われるなんか思いもせんかった。

殺風景な部屋にはイジるようなオモチャも置いてない。
部屋に飾ってるのは1000ピースのパズルで作ったイルカの絵と写真がちらほら。
さすがの高成も沈黙に耐え兼ねて目だけで部屋を物色し始めた。

「これ、いい?」

高成が指したのはアルバム。

「えぇけど、なんもおもしろないで?」
「写真なんだから面白くなくて普通じゃん」

なんでそっちに持ってくんだろうね?涼介もだけど、と笑った。
その笑った顔にきゅんってした。
写真を見る顔。たまに微笑んでたりするのがまたきゅんってする。

やっぱりカッコイイ。
写真に向かって優しく微笑む高成にドキドキする。
ドキドキするけど、写真の何を見て笑ってんのか気になる。

あたし以外にも女の子はいっぱい写ってるわけで中にはもちろん可愛い子だっておる。
自分だけを見てほしいってのは厚かまし過ぎるけど他の女の子見て微笑まれるのはいい気がせん。

気になりだしたら止まらんくて四つん這いで高成の隣に移動して、高成の左肩に頬をくっつけて少し体重を預けるように写真を覗く。

「おもしろい?」
「おもしろいよ。みんな可愛いし、おもしろいね」

可愛い、の言葉にぴくっと反応した自分が憎い。
頭の上で高成が笑ったのがわかって余計にそう思った。

「ヤキモチ?」

高成があたしの頭の上に顎を乗せてクスクス笑いながら聞いてくる。
どうやらバレたらしい。
別に、と強がって答えたら、「涼が一番可愛い」とサラッと言われて鳥肌がたった。

もちろん悪い意味じゃなくて、恥ずかしがることもなくサラッと言うてしまう高成が自分の彼氏なんやって思ったらそうなった。
一般的にも“可愛い”とは言われへんあたしの顔を“可愛い”って言うた高成にドキドキした。
その半面、申し訳なく思ったし、不釣り合いとも思った。

高成にあたしは合わん。
高成にはもっと可愛い彼女が似合う。
あたしとおって、あたしが一方的に言われる分には問題ないけど高成が言われるのは辛い。
あたしのせいで高成が迷惑するような気分を害するようなことはしたくない。

高成がページをめくる事に現れるあたしと友達。

この子みたいに目が大きかったら。
鼻が高かったら。
笑顔が可愛かったら。

そんなことばっかり考える。
隣に写るあたしは超庶民的で可愛いどころか地味って感じで可愛いのかけらもない。

写真を見てたら卑屈になりそうで高成の肩から離れて元の位置に座り直そうと思ったら、アルバムに添えてた高成の左手があたしの左肩に移動して離れんように引き寄せられた。
びっくりしたあたしは高成を見たけど視線はアルバムに向けたまま。

「なんで離れんの?」

そう言われて離れられるわけがない。
それに写真の友達見て勝手にヤキモチ妬いて卑屈になってました、なんて言えん。

何も言わんあたしの肩をさらに強く抱くと小さな声で「離れていくな」と聞こえた。
その言葉にまたきゅんってなった。

横顔やけど寂しそうにする声は可愛くて直前までの卑屈やヤキモチを消し去る効果は絶大やった。
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