夢物語【完】
「あんな」
あたしが声を出すとぴくっと反応する。
眉がだんだん下がってきて不安そうな顔。
そんな顔をさせるのがあたしっていうのがちょっとした優越感。
場合を考えずに嬉しくなるあたしは本気で残念な人間やと思う。
もっと浸ってたいけど、まずは互いの思ってることを伝え合わんとあかん。
とりあえず、
「このままでもいい?それとも離れた方がいい?」
深刻な話になるし密着したまま話してええんかどうかが気になるところ。
あたしとしてはこのまま話したいけど態度にそぐわん話題だってあるし、高成が本気であたしを好きでいてくれてるなら傷付けることもあるやろうし、だからってこの体勢でおることがフォローになるとは思えへんけど、できることならこのままがいい。
せっかく触れ合えてんのに離れるなんて寂しすぎる。それは高成も一緒やったらしく、何も言わずに腰を引き寄せてくれた。
二人でベッドにもたれて並んで座ってあたしの頭は高成の肩に預けたままで高成もあたしの腰を掴んだまま離さんかった。
一瞬、今日の朝みたいに母がのぞき見してんちゃうかって思ってドアを見たけど、そこは一ミリも開いてなくて部屋には完全に二人だけやった。
一言で言えば、“心地好い”。
隣に座ってくっついてる高成の温度が気持ち良くて目を閉じたら寝てしまえそうなくらい心地好い。かなり安心する。
だからってわけじゃないし意地悪でもないし卑怯なわけでもないけど、高成とこうしてたいって思う。
可能な限りくっついてたいって思う。
それはあたしの甘えで、やっぱり卑怯なんかもしれん。
「いっこ約束してくれる?」
高成があたしの我が儘を拒否したことないってことを、
「あたしが話してる間、絶対離れんといてほしい」
高成があたしに優しいことを、
「絶対にあたしから離れんといてほしい。これ、約束」
高成はあたしのことが好きってことを、完全に利用した卑怯なあたしの我が儘。