夢物語【完】
「ん・・・」

目が覚めたのは当然朝で、想像してた通り泣きすぎで目が腫れて重い。
普通に開けてるつもりやのに半分も開いてない気がする。

それに高成の匂いがする。それにいつもより温い。
温もりに擦り寄ると安心してまた寝てしまいそう...?

「?!」

次第にはっきりしてくる意識で段々状況が把握できてくる。
頭元と腰に腕。目の前にはいつから見てたんかわからんけど、あたしを観察してる高成の顔があった。

「おはよう」
「お、はよう」

自分から擦り寄っといてなんやけど近い、近すぎる。
心臓がバクバクし始めるのと同時に顔が赤くなるのがわかった。でも同じくらい安心してる自分もおることに気付いた。

ちょっとだけ高成の頭の位置が高いけど顔が目の前にあることに変わりはない。
その至近距離に怖じけづくあたしは腰に腕を回されてるから背中から距離をとろうと反らしてみたけど無駄な抵抗に終わり、額がくっつくほど距離を縮められた。

「目、やっぱり腫れてるね」
「!!」

今更ってわかってるけどやっぱり恥ずかしくてみっともない事には変わりなくて思わず両手で目を隠した。

昨日あんなけ泣いて寝顔も見られて、これ以上はないってくらいヒドイ顔を見せた。
それでも抱きしめてくれる高成の器の大きさに感心の溜め息が出そうになる。

「アイスノンか保冷剤みたいなの貰ってくる」

そう言ってベッドから起き上がり部屋を出て行った高成の後ろ姿を見て寂しいと思った自分に「乙女か!」と思わずツッコんだ。

昨日の夜の話なんかなかったみたいにいつもどおりの優しさをくれる。
昨日は結局、あたしが泣いたせいで先に寝てしもたから、これからのあたし達の関係について話せてない。

あたしは本音を言うた。
もちろん“別れる”つもりで。

こんなグダグダな状態は互いにとってもよくないし、あたし自身許されへん。
中途半端な気持ちでは先が知れてる。

中途半端な気持ち、ていうよりか今までの自分への代償というか戒めってヤツで、ほんまは高成とは別れたくない。

“好きな気持ち”に嘘はない。
自分で言うてて意味わからんくなってるけど、この意味不明でごちゃごちゃした状態を元通りにするつもりで別れようと思った。

別れたら毎日連絡が来ることも無くなるやろうし、当然特別な存在じゃなくて多くのファンの一人になってしまうけど、それは覚悟の上。
だから別れた後に高成がまた連絡してもいいって言うてくれたら、次は“ファン”から“友達”に昇格するように頑張ろって思えた。

今のあたしに高成の彼女である資格なんかない。
そこまで厚かましくなったらあかんって思う。

「貰ってきたよ」

戻ってきた高成の手にはアイマスク。
冷蔵庫に冷やしておいて使うものらしく、瞼に乗せるとひんやりした。

「冷たい?」
「うん、気持ちいい」

腫れた瞼の熱が冷たいアイマスクに吸収されるように感じる。
右側に高成がベッドの縁に腰掛けてるのがわかる。
アイマスクで高成が何を見てんのかわからんけど、なんか緊張する。
ドキドキして沈黙が苦しい。

「ごめんな」

目が見えん状態での問い掛けに一瞬わからんかった。それが何に対しての謝罪なんか、なんで高成が謝るんか。
謝らんとあかんのは全面的にあたしのほうで高成に非など全くないのに。

「あの」
「そういえば、今日帰るから悟が薺に買う土産を一緒に選んでほしいって言ってた。昼からの予定だし、それまでには腫れもひくでしょ」

今のは完全に遮られた。
何も言うな、て言われた気がした。
だから何も言えんくなった。

謝りたかったのに。
あたし達のこれからの関係についても話したかったのに。
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