夢物語【完】
それからはあたし一人でモヤモヤしながら何気ない会話をしてた。
沈黙が怖くて次から次へ話題を出して、なるべく止まらんようにしてた。

昼前にお風呂に入って出掛ける準備をする。
高成がいてることが普通になってて風呂上がりに迂闊にもすっぴんを見せたあたしは「すっぴんの幼い顔も可愛いね」て言われたことで赤面した。

慌ててメイクをして部屋を出ると「もうちょっと見たかったなぁ」と言われて恥ずかしくも複雑な気持ちになった。

合流するのは13時やから高成はうちで昼食をとることになった。

当事者であるあたしから見て率直に思うことは、昨日あたしが落ちてから母と高成の間で何かがあったってこと。

あたしの部屋に行く前の高成と今の高成では雰囲気が全然違うし、母も昨日のつんけんした態度のカケラもなく、むしろお気に入りって感じでむっちゃ可愛がってる。

あれから二人の間で何があったんかわからんけど、あたしにしたら不可解きわまりない。
高成も母のことを「お母さん」って呼んで、母も「高成くん」って呼んでる。
その空気に混じりきれてないあたしは複雑な気分。

結局、食事中は母と高成で盛り上がってあたしは始終かやの外状態、というか、母があたしにふってけぇへんって感じやった。

それはそれでえぇけど、それもまた……何かと複雑な気分で、それは母が高成を玄関で見送る時まで続いた。

「またおいでな」
「はい、是非」
「コレが彼女で申し訳ないけど、好きにしてええから」
「親公認ってヤツですか?」
「高成くんには気の毒やけどねぇ」

高成の言葉にドキッとしながら母の言葉に納得してしまう。

どんな経緯があって、ここまで仲良くなったんかわからんけど、どうやら二人の中でのあたしはまだ高成の“彼女”らしい。

昨日あんな態度とったのに母は何も言うてけぇへん。
何があったかなんか安易に想像も予想もできたやろうし、今回の件で全面的に非があるのは誰が聞いたってあたしにあるのがわかるはず。せやのに母はあたしに何も言わんまま。

もしかしたら帰ってきてから説教がてら何か言われるんかもしれん。
それはそれで自分がした事を棚に置いても気が重い。

お邪魔しました、と高成の声が聞こえて、あたしも行ってきます、と言おうとしたら目が合った。
その鋭さにびくついたあたしは小さく手招きされ、玄関を出る高成を放って玄関で昨日の朝以来の母と二人きりになる。

恐る恐る近寄ると母は見下ろした目がきつくなる。

「あんたがはっきり答え出さんとあかんねんからな」
「・・・」
「あんたみたいな子をあんな思ってくれる子、この先絶対見つからんわ」
「・・・」
「中途半端になんなら早く切り」
「・・・」
「子供の恋愛に親が口出しするつもりないけど後悔するような事はせんように」
「...うん」

ほら、行ってきな!て言うた母はニヤニヤしてたけど感謝した。


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