夢物語【完】
後悔だけはせんようにしたい。

自分の気持ちに正直になれってことやと思うから、あたしは高成に話さなあかんことがある。
はぐらかされてる場合じゃない。

中途半端じゃいれんあたし。
白黒付けたいあたし。

そんなあたしがぐずついてどうする。

「高成!」

二人の時間を少しでも長く、てことで駅までの道のりを歩くことにしたから玄関を出てすぐのとこで待っててくれてた高成に声をかけた。

自分でもわかるくらい相当な笑顔やったんかびっくりした顔してる。

「お待たせ、いこっか」

高成の左腕を少し強引に引いて歩きだす。
高成はあたしの手を剥がすことも嫌がるそぶりを見せることもせず、されるがままで何も言わんかった。

確かに昨日あたしから考えたら、どういう心境の変化やねん?て思うかもしれん。
それでもあたしは今、高成の隣に並んでたいし、触れてたいし、出来るなら目を合わせたい。

あれから無意識なんか意図的なんかわからんけど目を見てない気がする。
向かい合って話す機会なら何度もあったのに高成もあたしもほんの少し視線がズレてて合うことがなかった。

そうした原因があたしなら元に戻すのもあたし。
だからあたしは自分の正直な気持ちを高成に話そうと決意した。

「あのさ」
「……ん?」

声をかけてみたものの切りだし方がわからず、

「「・・・」」

沈黙になる。

情けないチキンなあたしは沈黙に耐えれず掴んでた高成の左腕すら手放しそうになった。

「それよりさ」
「あー!!ちょっと待ってっ!」

思わず高成の前に立って口元を両手で押さえた。

「あたしから言いたいことがある」
「・・・」
「むちゃくちゃなあたしの言葉やから聞きたくないかもしれんけど」
「・・・」
「あたしの正直な気持ち、聞いてほしい」

口元を押さえてたあたしの手を高成の手によって剥がされる。

触れるだけでその手に全神経が集中したみたいになって脈打つみたい。
それでも触れてくれることが嬉しくて顔が緩むことをとめれんかった。

高成が掴んだあたしの手は高成によって手放されて力無くぶら下がった状態。

触れたい衝動を抑えて両手を固く握る。
触れる前にまずせなあかんことがある。

「あの、」

言いたいのに心臓がバクバクする。

これから言い訳しか言わんのに途中で逃げ出されんようにって両手掴んどくんやったって思った。

母がああ言うてても高成の気持ちは高成にしかわからん。
でも今のあたしは母のあの言葉が勇気になる。

だから頑張るしかないんやけど不安で怖くてたまらん。
震えそうになる声を必死で堪える。

「高成の言葉に、気持ちに、甘える形になるけど、あたしにもう一度だけチャンスほしい」
「チャンスもなにも、」
「あたしは!…あたしは京平の彼女が言うとおり今の状態じゃ高成の彼女でおる資格ないし、好きやって言う資格もない。でも...」

ここで泣くな。
泣いたら筋が通らんくなる。
泣いて許されるような女にはなりたくない。

それだけは絶対に。

「……涼?」

高成が優しく名前を読んでくれるから、名前を読んでくれるから許された気分になる。

結局あたしは最初から最後まで高成に甘えて許されて、でもそうじゃないとこの関係を保てんくて。

「これを最後にするから」

高成に甘えることを。

「絶対絶対最後にするから」

高成に許されることを。

だから、


「もう一回、あたしを“彼女”にして下さい!」



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