夢物語【完】

なんて言うたらいいんかわからんけど、胸がきゅ~って締め付けられる。
抱きしめたいって衝動が体のどこからくんのかわからんけど沸いてきて、考えるまもなく抱きしめ返してた。

昨日のお昼に感じた感覚と同じで、愛おしくて、その気持ちをどうにか伝えたくて抱きしめる。
言葉にするには難しくて、あたしだけにしかわからん気持ちがいっぱい体中から溢れる。

「涼が戻ってきた感じがする」

昨日の夜から涼がいなかった、そう呟いたのをあたしが聞き逃すはずなかった。

これから今以上に増える心配も悩みも不安も、越えていけるかどうかなんて今はわからん。

もしかしたら何かのキッカケでまた昨日みたいな日が訪れるかもしれん。
辛くてどうしようもなくて別れたいと思う日が来るかもしれん。

でも、この気持ちが一番やから。
この気持ちを大切にしてたら乗り越えられる気がするから。

「あたしは高成を大切にする。どこにおってもあたしの気持ちは変わらん。これから同じようなことがあっても逃げんとちゃんと乗り越えられるくらい高成のことを想えるように頑張る」

高成は何も言わず抱きしめる腕に力が入った。
高成がこうやって何も言わんと抱きしめてくれるその意味があたしと同じ理由やったら嬉しい。

「“運命”やもん」

出会ったことも、再会も、別れの危機も、今も、全部、“運命”。
こうやって運命の山や谷を乗り越えて本物に近づけていけたらいい。

ロマンチックでメルヘンちっくな話で他人からしたらアホらしいかもしれん。

「そうだね」

でも、同意するあたり高成はかなりあたしに毒されてる。

はちゃめちゃでつじつまの合わんことだらけのあたしに振り回されてる時点で高成も変わり者ってことになるけど、それも運命共同体ってことでいいんちゃうかな、て思う。



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